初任給で60分16000円のソープに行った話・後編
適正価格の適正さを知る物語の後編です。
嬢に手を引かれ、部屋の前に立ちます。木製の古びた引き戸には「9」と書かれた札が提げられていました。
部屋の中には、足つきマットレスといった風体のよく言えばシンプル、悪く言えば貧相なベッド、そして小さなテーブルがありました。
そして、その奥にはタイル張りのお風呂スペースがありました。壁や扉などで区切られてはおらず、シームレスに部屋とお風呂が接続されています。お風呂スペースの向かって左側には小さな浴槽と、その反対側の壁にはマットが立て掛けられていました。そう、マットプレイのためのマットです。マットの上でヌルヌルするやつです。まあ今回は使われなかったのですが…。
初めて見る部屋の中をボケっと観察していると、嬢から座るよう促されます。おとなしく荷物を置いてベッドに腰掛けると、飲み物は何が良いかと聞かれます。アルコールという気分でも無かったのでとりあえずお茶にします。今思えばアルコールで脳ミソをガバガバにしておけばよかったかもしれない。
嬢は紙コップに入ったお茶を僕に渡すと、僕の横に座りました。僕と嬢の間には広辞苑1.5冊ぶんくらいのスペースがありました。
広辞苑1.5冊を挟んだまま、雑談タイムが始まります。
身分は何か、今日は休日なのか、どこで働いているのか、いつもの休日は何をしているのかといった、恐らくお決まりなのであろう雑談です。
休日は大抵アニメを観ているというと、「そっか~アニメか~……」と流されました。
流すなら聞くな。顔でおおよそ分かるだろう。
そんな広辞苑タイム(岩波書店さんごめんなさい)が5分くらい続くと唐突に、「じゃあ脱いでください」と言われました。
「脱ぐって……全部ですか」
「はい、そうです~」
あ、なるほど、自分で脱ぐんですね。ピンサロと同じですね。まあ16000円だしそんなもんか。
僕が指示通りにモソモソと脱衣している間に、嬢もネグリジェ的な衣装を脱いでいきます。
僕はこの辺になると完全に「今回の体験談をいかにTwitterとブログに書いてやろうか」しか考えていなかったのですが、それでも一応、横で女が脱いでいたら視線は向きます。
しかし。
この嬢の乳、伸びている……。
これはアレだ。
おばあちゃんのおっぱいだ。細く伸びている。漫☆画太郎の描くババアの乳だ。いや
あそこまで伸びてはいないけど、方向性としては間違いなくそれだ。
3歳くらいの頃、まだ元気だったひいおばあちゃんにお風呂に入れてもらった思い出が蘇ります。
天国のひいおばあちゃんに思いを馳せていると、嬢は身体にバスタオルを巻いて浴室スペースに移動します。
「少しそこで待っててくださいね~」
「ア、ハイ」
僕は全裸でベッドに腰掛けたまま、嬢が浴室で何かしているのを後ろから眺めます。
ここで気付きます。尻が貧相で汚い。全身が貧相なのはもう先ほどの時点で分かっていましたが、尻もか。そして、何やらシミもある。蒙古斑みたいな。
完全に性欲が凪いでいきます。乳も尻もダメなら何に欲情すればいいと言うのでしょうか。
どうやら嬢は洗面器の液体を混ぜているようです。これはアレでしょうか、ソープ嬢の伝統芸能と言われるお湯でローションを溶くやつ(参考:
https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=67131216 )
でしょうかと、文化人類学的関心が頭をもたげます。性的関心は死んでいます。
「準備できましたので、どうぞ」
「あ、はい」
嬢に促され、スケベ椅子に座らされます。人生初のスケベ椅子です。そして、ボディソープで身体を洗われます。こちらの全身にボディソープを塗った後に、嬢がそこに身体を擦り付けて泡立てるという方式です。
これは性的興奮を煽るプレイの一環なのでしょうが、感情とか性的欲求とかがほぼ死んでしまっているため、「ああ、洗われていることだなあ」とただ詠嘆するのみでした。
伸びた乳を擦り付けられても、不愉快でこそなくとも何の感情も生まれません。
しかし、スケベ椅子の凹部分から手を入れられ、所謂「蟻の門渡り」からアヌスにかけての部分を洗われた時には流石にアアアアッとなりました。気持ちいいかと言われるとんまぁそう……よくわかんなかったです(YJSNPI)といった感じでしたが。僕の後ろは未開発です。
一通り身体を洗われると、浴槽に入るよう促されます。お風呂に入る前には身体を洗いましょう、それはどんなお風呂でも共通なのですね。
しかし、この浴槽……小さい。ボーちゃんも溺れなさそうな安心設計です。人間一人が入るのにはそれなりに丁度いいのですが。
そしてお湯がぬるい。体感37℃くらいでしょうか。更にお湯が少ない。肩まで浸かれません。
これがお風呂屋さん(体面上)ですか。
そんなお風呂で悲しくなっていると、嬢が「一緒に入ってもいいですか」と問いかけてきます。ここで「ダメです」と答えたらどうなるのだろう。ドラクエ式の「はい」まで永遠ループするやつになるのでしょうか。それとも強制終了したりするのでしょうか。
ともかく嬢と浴槽内で対面する格好となりました。そして、水面から陰茎を露出しそれを咥えさせるという、あの潜望鏡プレイが始まりました。
しかし、ここまでの一連の感情喪失により潜望鏡は完全に沈黙しております。いくら咥えられても一向に応答がありません。
目の前の嬢はいくら乳は伸びていようがケツが貧相未満だろうが人間なので、人間のお仕事に対して何も返すべきものを返せないというのは流石に少し申し訳なくなります。
しかし下のお口は正直なので勃たぬものは勃たず、若干気まずい空気が流れます。
目を閉じて視覚を遮断し、自分は触手に性器を責められている魔法少女だと思い込むことで興奮を惹起しようとするなどの努力を払っていましたが、結局は何の性器もとい成果も得られないままお風呂タイムは終了となりました。マットプレイが体験できないということに、少しがっかりしました。もっと高いコースを頼まなければ入らないようです。
風呂から上がり、嬢に身体を拭かれ、再びベッドに移動します。ベッドに横になるよう指示され、嬢に馬乗りされる体勢となります。
そして覆い被さられたかと思うと、肩を舐められます。一瞬、吸血でもされるのかと思いましたが、舐めるポイントが段々と下半身の方に動いていくことから、これはいわゆる全身リップというやつなのだと理解しました。
結論から言えばこのパートが一番気持ちよかったです。乳首を舐められている時はシーツの端を掴んで耐えていました。自分をレイプされている美少女だと思い込む精神異常者となる作戦が成功しました。これなら性交できそうです。
どうにか臨戦態勢が整った怒張を確認すると、嬢は「そろそろ…しますか?」と問いかけてきます。
この機を逃すと永遠に決戦を挑むこと能わずと判断した僕は、迷いなく「はい」と答えます。皇国の興廃この一戦に在り。
嬢はどこからかコンドームを取り出し、手際よく装着してきます。この時が一番、嬢のテクニックを認めた瞬間であったと思います。
K市のソープは生でセックスができるところが多い、と小耳に挟んでいましたが、16000円で生ハメしたら医療費でその10倍くらい負担することになりそうなので、これは妥当と言えるでしょう。最も、その時は装着作業中の今にも萎えてしまわないかと心配する思いで頭がいっぱいだったのですが。
コンドームを装着すると嬢はベッドに仰向けに横たわり、カパッと股を開きます。
マンコは直視しませんでした。直視したら何かが終わってしまう気がしたからです。
挿入しました。
無です。
無がそこにありました。
何も感じない。
コンドームが厚すぎるのか。確かに安物っぽい質感ではあったような気がしました。厚さ1cmくらいありそうです。古代から近代にかけて使われていたという、動物の腸を素材としたものでしょうか。むしろ現代だと高くつきそうです。
それだけではありません。
この度の体験で一番印象に残ったのは、嬢の喘ぎ声でした。
喘ぎ声が、完全に同じパターンの反復でした。
しかもその声は、「真夏の夜の淫夢」4章の、「いいよ!こいよ!胸にかけて胸に!→ファッ!?ウーン…」のウーンの部分を加工して高くしたような声でした。
これが挿入中、ひたすら同じペースで発声され続けるのです。
完全に淫夢MADを見ているような気分です。
喘ぎ声を作るのは別にいいのです。売女の喘ぎ声などは興奮を煽る材料になりさえすれば、それでいいのです。その真実性は問われないのです。
しかし、その作成パターンが一つしかなく、しかもホモビデオを想起させるとはいかがなものか。
この回想に妙に淫夢ネタが入り込むのも、全てはこれによるものです。回想全体が毒される程度の破壊力はありました。
それでも挿入さえしてしまえば、あとは衝動のままに腰を動かすだけです。この衝動はADHD由来のそれではなく、きっと本能によるものでした。
遺伝子を残すことを諦めた人間の、それでも残る生殖本能。
穴があるのでとりあえず種を蒔いておく、そんな本能だけでどうにか性交渉を進めます。
そしてどうにか、何の風情も駆け引きもなく、ただ終わらせるためだけに事を終わらせます。
終わらせなければ終わらない。終わるまでは終わらないよ、とはかの名作アニメである少女終末旅行の教えです。
一通りの事が済み、しばらくベッドに横たわった後、嬢に一言断って裸のまま煙草をカバンから取り出し、火をつけました。
ハイライトの情け容赦ないタールが喉を締め上げる感覚は、何故だか救いのように感じられました。
嬢が自分も吸っていいかと尋ねてきたので、どうぞと返します。自分が吸うのに、他人に吸わせない理由はありません。それが誰であったとしても。
時計を見ると、制限時間まではまだ10分ほどありました。
そのため、嬢としばらく話をしました。
自分が今年から労働者となったこと。某都S区に通勤していること。初任給でここに来たこと、親に初任給でプレゼントをすべきか迷っていること、など。
S区の話をすると、嬢は「実家の家族にはS区でOLをしていると伝えているが、実際は行ったことがないのでよくわからない」という旨のことを言いました。60分の中で、僕はこのことについてだけは心の底から笑うことができました。
そして制限時間が来ると、僕も嬢も服を着て、部屋を出ます。
嬢に手を引かれ、4階から1階までまた階段を降ります。足の悪いご老人などには優しくないのではないでしょうか。
そして階段を降り切る直前、カーテンのかかったその目の前で別れを告げます。やっと解放される。
心にもない「またね」を交わし、背を向けようとすると嬢が少しだけ怪訝な顔をします。
一瞬考え、ああそうかこの場面ではキスをするのが風俗店の作法なのだなと思い至ります。ピンサロでもそうだった。
ほんの少しだけ、構わず出てやろうかと思いましたが、どんな相手であれ人間としては尊重しなければならない。
作法通りに軽いキスを交わし、カウンターの用務員おじさんの「ありがとうございました」を背中に、薄暗い店から転がり出ます。
昼の12時を少し過ぎた春の日差しを浴びると、途端に酷い倦怠感に包まれます。
それでも歩き出します。帰りたい。帰るべきだ。帰らなくては。
店を出て真っすぐ歩き、一つ目の角を曲がり、そしてしばらく歩いたところで、唐突に限界が来ました。道の横にあるビルにもたれかかり、しゃがみこんでしまいます。
身体ではなく、心がもう駄目なのでした。
しばらくそこで蹲っていると、これまた風俗店のボーイのような人が近寄ってきました。
そう、ここは風俗街。風俗店から少し歩いたところで、けっきょく風俗店しかないのです。
逃げなくては。ここから、離れなくては。もうこれ以上、耐えられない。何に?全てに。
その思いを杖として、どうにか立ち上がりまた歩き出します。
そして、どうにか電車に乗り、最寄り駅までたどり着きます。
電車の中で、Twitterにここまでの経緯を投げ捨てるように書き込み、少しだけ心が癒されました。Twitterは情報ソースであり分身であり我が家であり精神安定剤です。
駅に降り立ったところでようやく少しの空腹を感じ、ああそうか、今は昼飯時だったなと気づきます。
ランチ営業をしている居酒屋が目に入ったので、そこで海鮮丼を頼みました。
あまり美味しくありませんでした。
おわり。